heartbreaking.

中年の末路とその記録

死にたい夜を越えて… 独りの子守唄

今の会社は人間関係はいいんだけど、子供自慢や孫自慢の話が多すぎる… 俺は作り笑いで誤魔化すが、内心穏やかではない。俺は正直、追い詰められている。俺すらも手の届かないほど深い心の奥底で、ドス黒い塊がうごめき始めているのを感じる。これが表面化したとき、俺はとんでもないことをしてしまうのではないか。そんな薄っすらとした予感に密かに期待している俺がいるのも事実で、窮屈な場所に押し込められてしまったままの息が詰まるほどの心の叫びを…… 子供自慢や孫自慢を平気で出来るやつらの笑顔に思いっきりぶつけて黙らせてやりたい。

子供自慢や孫自慢をするやつらの顔を、作り笑いで眺めながら俺はずっと「嗚呼ここで俺がガン飛ばしたら相手はどんな反応するかな」って、ぼんやり考えていた。俺の心だけなら、この肉体をとっくに飛び出して相手の顔面を思いきり殴り続けているところだが、相手は俺の隠した本当の心など知る余地もなく、永延と子供自慢を続けるのだ。嗚呼その調子で続ければいいさ、俺の心はどんどん壊れてく。ぴきぴきとヒビが入って、ヒビだらけで現実がなにも見えなくなってしまうまで追い込んでくれ。そのうち無感情になって、何も感じない空っぽの笑顔のままで人形のように笑い続けるから。こんな笑顔でよかったらいくらでもくれてやる。嗚呼おめでとうよ、よかったね子供産まれてよかったね。ははは、はははは…

そんな時間から抜け出して、いや逃げ出すように原付でかっ飛ばして一人の部屋に戻ってきた。とりあえず電気付けて、汚れた靴下を脱いだら、体操座りで小さくうずくまって、ヒビ割れた心が回復するのをじっと待った。心の奥にわだかまった感情がぐるぐると、この肉体の中で暴れまくる。苦しい、さびしい、わかってくれ、俺にはもう時間がない、だから誰か手を差し伸べてくれ、俺はこのまま何処に行けばいい、何処に行こうとするのか、何処にも行けないのか、もうあいつらには追いつけない、あんなやつらに… 俺のほうが優れているのに、俺のほうがこんなに苦しいのに、こんな世の中なんて、ぐっ、シ、シニタイ… 死にたい、死ねばラクになれる。

俺が死んだら残された親はどうなる。俺が死んでも、幼児虐待犯の子供の血は残り続ける。俺の親の墓には誰も線香たてないのに、桂三の墓には娘の瑠奈が線香をたてるのか。被害者の一家の血が途絶えても、加害者の一家の血は途絶えぬというか、俺は加害者の家に火をつけて死ぬべきじゃないのか。

俺は考えが古いのかもしれぬが、親の墓に線香を立てることを非常に重く受け止めている。俺の親の墓に線香立てる人間がいない光景を想像しただけでゾッとするのだ。腹の芯からズーンと重くなる。だから俺は… 死ぬわけにはいかない。

な、なんとか大丈夫だ。この一人だけの空間があれば俺はなんとか立っていられる。一人は最高の贅沢だ、そう信じたい。薄っぺらい布団の中にもぞもぞと潜り込んで、丸くなれば、まるで胎児のような気分で… 嗚呼このまま何かをやり直せるんじゃないかと淡い期待に包まれてほんのり幸せな気持ちになれる。自分の体臭のしみ込んだ布団に頬をすり寄せ、その匂いを嗅いでいると、自分を最高に愛おしく感じる。有難う、今夜もお前のすべてを子守唄に、俺は一人で眠りにつくよ。

そんな日々の繰り返し、繰り返し。すべての答えは自分の中にではなく、自分以外に本心から愛してもいいと思える誰かの優しさの中にあるんじゃないか、そんなわずかな希望の灯火が消えないうちに、いい出会いがあることを祈るだけです。

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