heartbreaking.

中年の末路とその記録

不動産屋に勧められた不気味な物件

今のアパートは地元の不動産屋で見つけたのですが、一人で決めたわけではありません。

「女一人ではいい加減な物件を勧められるかもしれない」と心配したXさんが、「ボクも一緒に行くよ」と付いてきてくれたんです。

不動産屋に、予算は3万までと伝えると、いくつかの物件を紹介してもらえました。不動産屋の運転する車で現地へ行くと、3万だけあって、それなりの物件しかありませんでした。

ちょうどその日は小雨が降っていて、穴ぼこだらけの階段には水溜りがいくつもできていて、すでに不快感を感じていました。

部屋に到着すると、ドアを開けるときもガゴ…バコーン…! 閉めるときもガタピシ・バコーン!とものすごい音がします。

3万前後の物件にしては、中は広く、しかも角部屋で、台所の他に和室が二つありました。しかしお風呂を覗くと、ひび割れたタイルに正方形の狭い浴槽、そして斜めに亀裂が大きく走る不気味に曇ったままの鏡… こ、こわ…

そして、一番大事なのが、「女の一人暮らし」ですのでセキュリティ面です。

Xさんは、押入れの上の板をコンコンと拳で叩いています。何をしてるのか尋ねると、まれに上の階の住人が押入れの天板を外して、下の階に侵入してくる場合があるそうです。それで押入れの天板の強度を確認してくれたようです。

さらにXさんはベランダに身を乗り出すと、隣の住人が仕切りを乗り越えてこちらに侵入しないかどうかチェックしてくれました。

そして最後にXさんは、私のような精神的に病んでいる人間には、太陽の光が大事だと説きました。この部屋なら、朝カーテンを開ければ光が差し込んで精神衛生上好ましいだろう。角部屋だし、この物件で決まり… かな?とお互いうなずいて握手をして、さあ出ようとした時です。

「?」

出入り口のドアの横(本来は、玄関の壁であるべき部分) に不気味な「扉」がありました。…こ、これは一体何の扉でしょうか…

古びた、縦長い扉です。その扉には鍵が付いてません。ギギィ、と扉を開けると、人間一人が入れるくらいのスペースがありました。その中心には配管パイプが通っていて、上の階まで続いているようでした。ただし、上の階とこの扉の中のスペースを隔てるものがありません。

つまり上の階から、この配管パイプを伝ってスルスルと、何者かが降りてきても可笑しくないのです(……)。しかもこの扉には鍵がかかっていません。Xさんはしきりに不動産屋に問いただしてくれました。「この扉はなんなんですかね…(;^ω^)」不動産屋は「えー、と。…調べてみます」と答えるだけで、だからこの扉はなんなんだよー!って、私もXさんも超不信感を抱いたので、お互い顔を見合わせて、この物件はナシねとうなずいたのでした。

さらに怖いことがありました。その謎の扉のある物件を去ろうとした時です。来たときは居なかった謎の不気味な男がボーッ…と立っていたのです。なんだか私たちをジロジロと見ています。こ、怖い… この物件は何かいわくつきなんじゃないか。

私一人で来たらおそらくこの物件で承諾していたかもしれません。女性の皆さん、物件探しの際はけして一人では行かないでください。誰かを同行させてください、おかしな物件をすすめられない為にも、そして自分一人では気付かない、第三者の視点も必要だと思います。

そんなこんなで、その後も二つの物件を見学したのですが、その中の一件が今私が生活しているアパートです。

この部屋は大変日当たりがよく、目覚めれば大きな窓から朝日がさわやかに差し込み、白い壁紙と綺麗なフローリングの部屋で、うーん…と両手両足を思い切り伸ばして気持ちよく布団から起き上がります。部屋を出れば綺麗な台所があり、コーヒーを入れて喉をうるおして、ちょっと体が気持ち悪いなと思えばシャワーを浴びて、実家に居た頃では考えられないほど快適な毎日を送っています。

環境が人を作るのだなとつくづく実感しています。私はちょっと人とは違う変わり者なので、いまどきの若い男女のノリは苦手で、コミュニケーション能力の低さから自分に必要以上に劣等感を感じ、退職… の繰り返しで職場を転々としてきました。失業する度に、誰にもうまく説明できないこの心の苦しさを胸の奥に閉じ込めたまま、カーテン閉め切った日当たりの悪いジメジメした四畳半の部屋の隅でうつうつと過ごしていました。

まずカーテンを開けることもできないような環境自体が間違っていたのです。今、失業している私ですが、この完全に自分だけで作り上げることの出来る世界がある限り、膝を付かずに生きてゆけそうです。

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