heartbreaking.

中年の末路とその記録

いつか君と語り合える日を夢みて、今日もドラクエの世界にいます

ドラクエ10で、密かに恋心を抱いたままで、半年以上、声をかける勇気すら持てず、ただ見つめているだけの人がいる。

その人はウエディ(男)で全職レベル75でカンストしている。たまに酒場に出している私のキャラクターを借りてくれるので、まだ少しは覚えてくれているのかな……

最初は私のほうが強かったのに、いつの間にか追い越されてしまったね… 随分、強くなった君に恋している人がいて、いつも見つめていることに気付いているかな…

毎日、君のログイン状態を欠かさずチェックしているし、酷いときは数十分おきに、今どこでなにをしているのかを気にしている自分がいる…… 君がログインしていない日は心が暗くなる。これを恋と言わずして何だというのか、そして私は一体なにを期待しているのだろうな…

そんな淡い恋心を抱くことはあるね…

全職レベル75か… まいったね… これじゃあ、ますます手が届かない。いつの間にか高嶺の花だよ。

ネトゲの中で強くなることは、その人にもともとある魅力を増強することになる。……危険すぎるよ、そんな強さで、もし、なんでもない風に話しかけられたら… 心をぜんぶ奪われてしまうね。

最初の出会いは、私がまだ(旧)チームに属していた頃だった。

チームで「おにごっこ」イベントを行った後、10人くらいが酒場の前で円陣組んで座り込み(周りからみるとかなり怖い集団だったと思う…)、勝者に景品を配ったり、くだらない話から実のある話まで各々が披露して盛り上がっている最中だった。

私はもっぱら聞き役にまわっていたので、正直退屈だったケド。……その時だった。

「蜘蛛退治手伝ってくれませんか」

突然、チームの盛り上がりの中に、一人の男が飛び込んできた。時間は夜中の2時くらいで、あたりは人気もない。いつもなら町の入り口で人を誘えるが、この時間では酒場の前に円陣組んでいる怖い集団に声かけるしかなかったのだろう……

私はちょうどチームの雑談にも飽いていたので、その男の蜘蛛退治についていくことにした。これでチームの退屈な雑談からも抜け出せると、その男に感謝しつつ…

「一緒に行きますよ」と私は、その男に伝え立ち上がると、チームの面々から「クマぽん、優しい」「やめときなよ」的な声が次々とあがりはじめ、私以外は誰一人として、その困っている男に協力する姿勢は見せず、皆、座り込んだままで微動だにはしなかった。

この時私は、自分の属するチームが実は、「外部の人間」に対しては「排他的」な集まりになってしまっていることに気づいたのだ…

…結局、蜘蛛退治で困っている男に付いてゆくのは私だけで、チームの皆に「がんばって」「気をつけなよ」と応援だけされて、チームの円陣を抜けた。

男は、私が蜘蛛退治に付いていくと言ったので、ものすごく喜んでくれた。道中で「ありがとう!」とお礼も言ってくるし、タマにネガティヴなギャグも飛ばしてくるけど(←多分、チームの面々に見事にシカトされた直後で傷ついていたのだと思う)、そんなのも個性的で魅力を感じた。

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↑男はこの時、人間の姿だった。手前の戦士が私です

蜘蛛を死闘の末、なんとか倒したあとも、彼の若干ネガティヴな発言は消えなかったが、それは私の属するチームの面々が彼に対して冷徹な態度をみせ、傷つけたためだと感じたので、彼には心底悪いことをしたと思った。

彼は冗談を繰り返し明るく振舞う中にも、時折見え隠れするネガティヴさが絶妙に絡み合って、魅力的な男だった(私がもともとネガティヴな男を好む傾向があるからなのだが…)。

そのあとも、彼とはしばらくの間は付き合いが続いていた。ジュレットの海岸で写真を撮ったり、ジュレットの夕日を見つめたり……

私がチームを抜けることで悩んでいるときも、彼は真剣に話を聞いてくれて、知性を感じさせる的確なアドバイスもしてくれた。ジュレットの夕日を見ながら、「人はいくらでもいるのだから、今のチームにクマぽんがそこまで義理を感じることはない。思うままに行動すればいいんだよ」と言ってはげましてくれた。

そして彼は「クマぽんがチームをやめるのなら、二人で一緒にチームを作ろう。クマぽんがリーダーになればいい」と言い、そのための費用も準備してくれた。でもその時、私はチームをやめることにばかり意識が向いていたので、自分がリーダーとなって新しいチームを作る意欲は沸いてこなかったのだ。

結局、チームを作るための資金は彼に返して、その後半年以上、私はソロで世界をあてもなく彷徨い続けた。ただ、レベルをあげることだけに没頭したり・クエストを全部片付けることにこのゲームへの意義を見出そうとしたり。

勿論、ソロだから、強ボスやコインボスに行く勇気もあてもない。人と関わる勇気をもてないソロだから情報も「戦略」もどこからも入ってくることはなく、次第にこのゲームに飽きて、何ヶ月も放置した。その間も君はドラクエを信じて努力を続けていたんだね… だから、いつの間にか追い越されてしまった。

なんとなく久々にジュレットの町を一人で訪れてみた。もう皆、成長したのか、人気はない。たまに砂浜に恋人同士が座っている。いつか君と再びここで語り合える日を夢みて、今日もドラクエの世界にいます。