heartbreaking.

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好きにならずにいられない

『好きにならずにいられない』(2015 アイスランド・デンマークの映画)
ストーリー(公式サイト)

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母と二人暮らし、独身の主人公。朝食にシリアルを食べる傍らで母は息子のための弁当を作る。それ以外では、主に彼が単純肉体労働をする姿が寂し気に映し出されている。

人に対し口数の少ない彼に興味を抱いた職場の同僚たちは、彼が童貞であるかもしれない疑惑を抱き、そのことをネタにし社内でイジメをするようになるが、彼は自身が童貞であるかどうかということには答えず、イジメに寡黙に耐えてゆく。事態が悪化しすぎないで済んだ理由は彼が職場の上司にその事実を打ち明けなかったことにある。

この映画はイジメが原因で自殺を図るような作品ではない、周囲から勝手な偏見や差別が起ころうと、きちんと仕事をこなし(けしてサボらずに)、人を怨むことだけに人生のエネルギーを費やすようなことをせず、独身であっても人間らしい生活を営むことの大切さを教えてくれている。

彼は仕事のない日に行きつけの店に通い同じ料理を頼む。人気のない場所で独り車内で大音量でロックを聴く。ラジコンカーで遊ぶ。独りでも楽しめることを大切にすることでイジメに耐えられる強さを鎧のように精神に纏っている。この作品の中で一度も彼の負のエネルギーを感じることはない。

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パートナーがいるかどうか、童貞や処女かどうかということが、人間の価値を決めているわけじゃない。ましてそれらすべては自分の努力でどうにもならない、けれど人形遊びをする小さな女の子ですら、独りで過ごしていることに疑問を抱くのであった……

彼は帰宅すると戦車や兵士の配置されたジオラマに触れる、戦争で命を落としてゆく兵士達のように命を燃やせる理由が見つからず心の行き場を求めているように思える。

そんな中ようやく恋をした女性に全情熱を捧げるその献身的な様子に強く心を打たれるが、その相手が精神病を患っているらしく……途方もない苦労をすることになる。そしてそれまで恋人がいない様子の息子を心配していたはずの母も息子と共依存であることがこの恋愛の障害となりかけることも起こる。

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その人にたとえ愛されることはなくても、その人が幸せになるために、何をすれば自分が納得して生きていられるのか……

どこまでやれば(尽くせば)結果が上手くいかなくても、諦めがつくようになるのか……

この主人公なら、彼女と束の間得られた幸福感を糧に、何もなかった頃の自分からの心の変化の部分を大事にして、生きて行けるのではないかと思った。

恋愛についてではなく、孤独の中でどう生きてゆくのかを考える映画。