heartbreaking.

中年の末路とその記録

何でもない

最近リピーターが多くなってきたので、ドアを開けると見覚えのある顔に迎えられることが多い。初めて会う客には、自分が受け入れられるかどうか、すごく緊張するのだけど、二回目以降の客なら幾分か気が楽だ。

ただ問題なのが、一度目に我慢できずにやってしまった男に二度目も会ってしまった場合、やっぱり二度目もやることになるので・・・ まんざらでもない自分もどうかしてると思うけど。

「愛してるって言って」「好きって言って」こんな無理難題を言う客もたまにいる。

彼氏にすらまだ一度も「愛してる」は勿論、「好き」すらも伝えていないのに、店の客に「愛してる」を言うのはかなり抵抗があった。愛してる、はそんな軽い言葉じゃない・・・ お前は俺の何を知ってるんだ、何もしらないくせに愛せるわけがないだろう。仕事だから仕方がねえか。「愛してる」その言葉を口にしたとき、心臓にピシッと亀裂が走るような、どうしようもなく残酷な気分に心が真っ黒に塗りつぶされた。黒い心のままで、もしかしたら病気を隠し持っているかもしれない客に生で入れられて、彼氏にもやられていないような酷いことをされている自分が一体なんなのかわからなくなる。心が空っぽになっていく。

壁に貼り付いた大きな鏡を見ると、お尻を突き出して這いつくばった白い体が見える。誰だ?・・・俺じゃないか。ラブホの鏡に映る自分って何でこんなにエロく見えるんだろう・・・ なんだか目が離せない。

指マンされすぎて、我慢できなくて尿を出すところを客の前で見せたことも何度かある。おしっこは、幼い頃に監禁されて「出して!」と虐められた記憶があるので長年のトラウマだったはずなのに、今は平気で客の前で出している。

仕事は割り切っているので、客に本気で惚れたりはしない。どんなに体の相性がよくても、所詮、金で繋がっただけの関係だからそこに愛は見出せない。残り10分くらいになるとホッとする。ふう、終わった・・・ これで上手いメシが食えそうだ、稼がせてくれてありがとな。

最終的に金さえもらえれば文句はない。最近は、化粧もちゃんとするようになったので、若い客にも気に入ってもらえるようになった。それを彼に言ってしまったので、「それ聞いて何て答えりゃいいの?へぇ、若い客も取れるようになって良かったねって言えばいいの?これで幅広くオトコとセックスして稼げるねって言えばいいの?」・・・とメールでキレられてしまった。若い男に気に入られたことが嬉しくてつい調子に乗りすぎたことは反省している。

彼女が風俗で勤める彼氏の気持ちは、俺にはわからない。だけど俺は、彼氏が想像する以上に酷いことをしている。こんな酷い俺だけど、彼のことを多分、愛している。

「毎日、感情も理性もギリギリの所で我慢して爆発しそうになるのを必死に抑えてる」「俺はアンタがどんなことをしているのか想像するだけで気が狂いそうになるんだ!」

こんな風に、店の客に嫉妬する彼にどうしようもなく魅力を感じてしまう。「他の男に指一本触れさせたくない」と言われたこともある。これが「男」なんだ。指一本触れさせたくないだなんて、胸が張り裂けそう・・・

抱きしめられていると、時々この体に、彼の爪がギリギリと深く食い込む。彼が、私を抱いた男に対して剥きだしにする独占欲が、食い込む爪の先からこの体中を震わせて、そうして生きている実感を得ることができる。誰かにこんなにも嫉妬され愛されている自分は、今確かにここに存在している・・・

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