さまよう刃 (角川文庫) [Amazon]
あまりにも重いテーマである為、何年もの間、恐ろしくて読むのを避けていました。でも、偶然古本屋で見つけたので、毎日少しずつ読んでいました。
花火の夜、浴衣姿の少女は、少年達が運転する車にレイプ目的で連れ込まれ、無垢な身体に執拗な性暴力を加えられる中、痛みと、絶望の果てに命を散らした。
声なき花弁の記憶を心に握りしめ、魂を切り刻みながら、少年二人に復讐を果たすべく、さまよう父親の姿を描いた、心を揺さぶられる一冊です。
少女たちの悲しみの描写は、不必要な性的興奮を与えぬよう、情欲が極限まで削ぎ落されている。悪を真っすぐに見据える描写。
愛する者の、あまりの命の儚さの代償に得たのは、命が終わるまで燃え尽きることのない真っ黒な炎。その炎に全身覆われながらも、歩みを止めぬ父親の姿に、かなり惹きつけられるものがあった。
現実は、この父親のようには、強くなれない。
こんなに長くは闘えないと思う。
だからこそ、世の被害者の望みを叶えてくれるかもしれない、この、少女を殺された父親の恐ろしいほどの行動力に、強く心を動かされるのです。
何度も涙が流れたが、ページをめくる手は止まらなかった。
けして人には言えぬ残酷な気持ちを、この小説のように叶えてくれる父親は……本当にこの世に、存在するのだろうか……
「もう二度と、おまえに、怖い目を見させたりしないぞ――。」
この作品は、男の子を育てる母親こそ、読まなければならない一冊ではないでしょうか……どんなに信じられないような事実が今後、目の前に現れようとも、この作中の、少年の母親達のように事実から目を逸らすことはしないでください。
女にとって、純粋な愛を無邪気な心のままに学べるチャンスは人生で、一番はじめの、一度しかない、と思う。それを望まぬ形で奪われたなら……
人間としての尊厳を踏みにじられる痛み。穢された後に知る喜びは、純粋な愛などとは程遠く、すべては過去の一つの点へと繋がってゆく。
痛み、悔しさ、永遠に終わることなき絶望の記憶を、現実には癒すことはできなくても、素晴らしい作家の方々が、作品の中で、被害者が無念を晴らす束の間の夢を見させてくれることもある。
私が感ずるところは、過去に性暴力の被害を受けていた方々であっても、年月が経てば、読める作品ではないかと感じました。
現実は親が子供を殺してしまうニュースが多いです。親に虐待を受ける子供も多いのだと思います。親子の愛すら感じられない方々なら、どう感じる小説なのでしょうか……
殺されてもいない私が、死という重いテーマを扱うこの作品に申す権利はないのかもしれませんが、自分が体験した過去のことを、この作品に何度も重ね見ることはありました。
あの日、父が懐に、加害者を刺し殺すべく忍び込ませていた、布に巻かれた短刀を見た日のことを忘れられない。
幼き日の私に性暴力を加えた加害者の男を、父が殺すつもりだったのだと知ったあの日から、私は一切その話を、父の前ではしなくなっていた。人様の子供を傷付けるということは、それほどに重いことなのだと私は充分に解っている。
東野圭吾さんは、私が長年果たせずに、諦めかけている復讐を、この本の中で、明白に叶えてくれた。
東野圭吾さんのことがとても好きになりました。結婚したいです。貴方はきっと、多くの性被害者の女性を救ってきたのでしょうね……まだ観てないですけど、映画はどうなんですかね?