社内で女性の友達はいない。嗚呼いるね、男友達はすぐできても、女友達のいないやつ……それが私で、休憩時間はほぼ一人で過ごしていた。
だけど女性を鑑賞するのは嫌いではなかった。たとえば小綺麗に髪を纏めたり、良い香りを漂わせてみたり……
緩やかなカーブを描くその胸元が男のためだけにあるものだと思っていた。
それは叶わぬ夢だと自分の中で勝手に境界線を引いていた。この体が、相手の求めるものを与えられないことをわかっている。
だから具体的になにをすることもできず、それを越えることもできない。
自分が「良いな」と思ってる女性とそんなロマンティックな関係になれるのは、そんなキスをするのは、創作の中だけの話だと思ってた……
いつものように孤独を感じながら淡々と作業をしていると、いつの間に目の前にいたのか、こっちに笑顔を向けてくれる女性がいて、1ページずつめくっていたはずの人生が、何ページも進んでいた。
それは別部門にいる、今までほとんど会話したことのない女性の先輩だった。
なにか大事な用があるらしく、二人きりで話せる時間がとれるかと、誘ってきた。なんだろう……まさかこのブログで会社での愚痴を言ってるのを偶然見つけたから忠告しにきたとかだったら嫌だな。
とりあえず、暇な時間だったのでオーケーして後を付いて行くことにした。
秘密の迷宮の中に足を踏み入れたように一緒に目的の場所まで歩いていると、なにか悩みがあるようにも思えた。お金以外のことなら出来る範囲で力にもなれるかもしれない。
様子を伺っていると、いままで見たこともない笑顔を向けてくれたのでとりあえずホッとした。どうやら悪い話ではないらしい(そう信じたい)。
とにかく大事な話があるらしい。
そしてようやく二人きりになると、彼氏がいるかどうか、新しい刺激が欲しくないかどうか、浮気をしたことがあるかどうか……などを聞いてきたので嘘は言わずに、浮気したことはあると答えた。
ところで、刺激ってなんの刺激のことだろう……
結論から言うと、3Pをしてみないかという誘いだった。かなりビックリしたけど、どうせ女性から性的なことに誘われるのなら、こんな雑にではなくもっと丁寧に積み上げてからにしたかった。。
その3人の中には勿論、今目の前に居る先輩も入ってる。
お互いに恋愛感情があるわけじゃない、それでいきなりそういうことできるもんなのか。
詳しく話を聞くと、3人目の男性が、女性同士の絡みを鑑賞することが主目的のように思えた(つまりレズ)、ということは……今まで関わりの薄かったその先輩と自分が、あの……いきなりすぎませんか。。
できるかな……
だが、先輩から誘われたのなら断る術はない。本当は、最近性欲がめっきり減ったので断りたいんだが、その場の空気に後押しされ、オーケーしてしまった。
不安がないわけではない。
……。
男と女なら突っ込むだけでとりあえず完結するけれど、女同士となると、んな単純なものじゃなくてだなあ、その、ムードとかが大事なんじゃあないのか。
自信がまったくない。
だけど幸いその先輩は、好きになれる見た目をしているので、できないことはない、やるしかない。
なんだ?この戦場に赴くみたいな感じ。男とやる時はこんな緊張なんて今更しない、だが女性とはそうもいかない。怖いんだ……何がって、それが何処まで続いてゆくのかがわからない、考え過ぎかな。
どうせ女性を愛すなら、もう少し想いを育む時間が欲しかったけれど……こうなってしまったからにはもう、過去に片思いをしたままで終わったあの人のことを思い出しながら、思いきり愛すしか……
嗚呼、本来の趣旨から外れているのかもしれない。3人目の男性のことはどうなんだっていう。3人目の男のことは特に心配していない。私は男と愛のないセックスをすることについてあまり深く考えないようにしている、仮にその男が今回抱くことになった女性の恋人だとしてもそれを奪うつもりはない、むしろ奪いたいのは……(心だ、貴方の)
この行き場のない想い、抱きしめてもらえるのか……抱くことで自分の中でなにかが変わるのか。永遠に解決しないと思っていた。夜も眠れぬほど、息も苦しいほど、貴方のことを想っていた、その日々にようやく答えが出るのだとしたら、私は顔を変え姿を変えた貴方の幻を貴方だと思い力の限り愛してみよう。