heartbreaking.

中年の末路とその記録

「私たち囚人みたいだね」

辞めた会社から電話がかかってきたんすよ… 「白衣をロッカーに忘れてるよ」って。で、渋々会社に出かける羽目になり、もちろん手ぶらで行くわけにはいきませんから3000円の菓子箱持参したのですが…

白衣をクリーニングに持って行くと、全部で2000円かかりましたorz なんだか馬鹿みたいだな。辞めた会社にこんなに金かけて、何のために辞めたんだか…

でも、工場勤めで学んだことも多かったので、あの日々を無駄だとは思わない。

ラインの流れ仕事は、「機械に人間が使われる」仕事なので… しかも機械は止まってくれない。機械の具合に左右されて工場員の昼食時間が決まる。

機械の具合が悪くブーブーと警報が鳴り止まない日は、昼食が2時を過ぎる時も多かった。12時過ぎても腹ぺこで、それでも止まることなくロボットのように同じ動作を繰り返し続ける。

そんな作業中に、ある先輩は言いました。

「私たち、まるで囚人みたいだね」と(儚い笑顔で)。

嗚呼…、そうですね。こんな工場の中に缶詰め状態にされて、ロボットのように同じ動作ばかり繰り返している。落ちぶれたとは思いたくないが、俺も落ちるところまで落ちたなと、マスクの下で思わず笑みがこぼれる。

白い帽子とマスクに覆われ、両目しか見せていない俺が… どんな表情かは誰にもわからない。周囲はすでに孫が居る50過ぎたおばちゃんばかりで、その集団の中にぽつんと若い俺が居る。

ある上司は、俺にこう言った。

「君、まだ若いのになんでこんなところで工場員なんかしとるんだね。君くらい若ければまだなんぼでも仕事はあるだろうが」と(こちらも悪気のない笑顔で)。

嗚呼…、そうですね。俺も好きでここまで落ちぶれたわけじゃないんですよ。人間関係に挫折してね… 話せば長くなるからいちいち話すつもりはないが。

若いので、50過ぎのおばちゃんたちにはキツイと思われる重労働は自ら率先してこなしていた。大きな機材を男のように担ぎ上げ、それをびしょ濡れになりながらホースで洗い、下水の悪臭漂うヘドロを掬い、とてもじゃないが若い女のする仕事じゃない。それでも俺の真面目な姿がおばちゃんたちの心に響いたのか、皆に大層可愛がってもらえた。

ある日、俺が重いダンボールを運んでいると、俺が密かに恋心を抱いていた上司がこう言った。

「お前、そんな重いもん担いだら腰痛めるぞ。まだこれから子供も産まないかんのに、あまり無理したらいかんぞ」と。俺の背中をポンと優しく叩いてくれた。その気遣いは喜んでいいのか、悲しんでいいのか… 俺をそんな角度で気遣ってくれるのはあんただけだよ。

疲れ果てて部屋へ戻り、汚れた白衣を洗濯機へ放り込むが、白衣についた汚れはちょっとやそっとじゃ落ちないんだこれが… 体は鉛のように重く、布団に倒れこんだら最後、気絶するように眠り続けた。俺にはなにもねえ、こんな薄給じゃ借金も減らねえ…

工場の仕事は想像したほど甘くはなかった。披露のあまり目がまわりだして点滴受けにいくほどだから、こんな重労働を続けることは今の若い子にはとてもじゃないが無理だろう。昔の人はタフだね。まあ孫が居るような人たちだから、俺みたいに何もない人間とは違うんだろうけど…

いい会社だったけど、耳を塞ぎたくなるような言葉も多かった。

「愛する妻が待っているので」「俺には家庭があるから、家庭が俺のすべてだ」「赤ちゃんの顔見ると癒されるよね」「あー、子供が生まれたんで嫁の入院してる病院に行かないといけないんですよ」「子供を抱っこしてると疲れがふっ飛ぶんですよ」

「子供を抱っこすると笑顔になるんですよ」

これがトドメだった。そうかいそうかい、それはようござんしたねえ。

あー、うぜえなあ… 黙れ、おめえの子供も虐待されちまえばいいんだ。ちっとは痛い目みろや… 俺もアイスピック常備しとくか。

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