ガンガンガン!
ガンガンガン!
なんだヤクザでも来たのか?だが、いくらヤクザでもこのドアは破れまい。
ガンガンガンガン!
ガンガンガンガン!
いまにもドアが壊れそうな勢いだ。おおし、ヤクザでもなんでもこいや、こっちは台所に包丁もあるんやからな、こいや、おらあ!なんじゃこらあああ!
「○○署のものですがー」
「ほんとに警察なんか」
「警察手帳をお見せしますからドアの覗き穴を見てください」
ドアの覗き穴から見てみると、印籠が目に入る。
俺の脳裏をすぐによぎったのは、例の有名人の件だった。ついに来たか、大人しくドアを開けて観念するのか、それとも…
「ちょっと話をお伺いするだけですから」
そんな事言って、ドアを開けたらすかさず手錠はめる気だろ。もしくはヤクザで、俺がドアを開けた途端部屋に雪崩れこんで押し倒して、あぁん… あん、あんっ… おらおらおらー!ぱんぱんぱん!って滅茶苦茶にして骨まで砕いてトイレに流すつもりなんだろ…
ドア越しに、相手の住所氏名を確認したがちゃんと名乗らないので、とりあえず名前だけ聞いて○○署に電話してみた。すると確かにその名前の人物は○○署に所属しているらしく、今日俺のアパートに飛ばされてきているらしい。マジかよ…
電話だけで用件聞けないのか、解決できないのかたずねてみたが、どうしても面会して調査を受ける必要があるらしく、電話を切って、観念してドアを開けた。すると、真面目そうな男が二人「お邪魔します」って感じで台所に入ってきた。
話を聞くと「自殺予防」のために警察は日々、「ネットのブログ上で自殺予告をしたり、自殺をほのめかしている人物」に「自殺はよせ」と呼びかけるために巡回しているらしい。嗚呼そうですか… 夜分遅くまでご苦労さまです。
でも自殺なんて誰でもフと心をよぎることはあるだろうに… 全ブログを調査してみろよ、俺なんかより危険人物はいくらでもいるだろうに。それだけ俺の文章が警察にとって「におう」ものだったということか…
におう、におうぞ… いけ、いって調査してこい!という事で、来られたわけですね。その二人の警察の男は「自殺予防」を呼びかける担当だけあって、言葉遣いもなかなか配慮があり、特に嫌な印象を受けることはなかった。
今後は気をつけてくださいね、ということで念押しされたのだが。
俺は今後、ネット上で弱音を吐くなということか?それってむしろ逆効果じゃないか。ほんとに自殺するような人間は、わざわざネットで予告なんかせずポッと首括ってしぬんですよ。
つまり警察が我々小市民に言いたいのは、
『死ぬなら、黙って死ね!』という事ですか。
自殺予告されると、警察がなにもしなかった!って親族や世間に責められる大義名分ができて面倒くさいから、死ぬなら黙って死ねこの野郎!って解釈でイイですか?
『殺すなら、黙って殺せ(無差別でもテロでも可)!』という事ですか。
犯行予告されると、警察がなにもしなかった!って遺族や世間に責められる大義名分ができて面倒くさいから、殺すなら黙って殺せこの野郎!って解釈でイイですか?
それにしても、なんで俺の元に来たんだろう… 誰かがチクらない限りは、わざわざ来るわけないじゃないか。
一応、その二人の警察署の男には、守秘義務について念押ししておいた。俺の情報を握る者の人数を掌握していないとどうにも落ち着かないんだ。
さて本題に入ろう。
調査書を片手に、俺に質問をしてくる警察のおじさんだったが、その調査書の中をそれとはなしに覗いてみた。まず、書類の一番筆頭には、これでもか!というほど大きな太文字で俺のプロバイダの「IPアドレス」が記載されてあった。
「このIPアドレスに覚えはありませんか」
「いえ、覚えてないので…」
「メールで最近、自殺予告をしませんでしたか」
「いや、記憶にないですけど」
「ブログで、自殺予告をしませんでしたか」
「…いえ」
「ほんとうに…?(微笑混じりで)」
「いや、パソコンはわたしのものじゃないので」
「実はあなたのブログに、あなたのプロバイダのIPアドレスで、今日このような書き込みがありましてね」
「…?」
「なぜか、『俺』という男言葉の書き込みだったのですが」
「覚えてないですが」
「プロバイダはなにをお使いですか」
「ヤフーです」
「実はプロバイダに問い合わせてIPアドレスを確認していただいたところ、貴方のこの住所のIPだということがわかりましたので、それで話をお伺いにきたんですよ」
「ほー、プロバイダはそんな簡単に警察に個人情報を渡すものなんですか、へぇー」
「ご両親はどこにお住まいですか」
「ちょっと待ってくださいよ。親は関係ないじゃないですか」
「いえ、こちらもお聞きしないことには(署に)戻れないので、お願いします」
「……」
俺の親父の生年月日と現住所、さらに勤務先をたずねられたのでしぶしぶ答えた。親父すまん… これで親父になにか迷惑でもかけたなら俺は、まさに首括って死なないかん状況になる。警察は、事情聴取される側のそこまでの心情を察することはできないのだろうか。
俺が万一、自殺か人殺しで人様に迷惑かけた場合に、親に真っ先に連絡が入るということなんだろう。
俺はおそらくネットの犯罪者予備軍リストに挙がっているに違いない。どうにも俺に対する対応が不気味に早すぎて、俺の方が警察の匂いを察知できるようになった。
「私は20過ぎているんですが、それでも親の情報が必要なんですか」
「こちらもお聞きしないことには(署に)戻れないので、お願いします」
「守秘義務は守ってくださいね」
「はい、それは厳しくしているので守りますよ」
「昼メシ時に、私の情報を笑い話みたいに漏らすんじゃないでしょうね?」
「そんなことはしないですよ」
ふと台所の床の上に目をやると、二人の警察のうちの一人の若者の靴下が目に入った。おじさんは胡坐をかいて座り込んで熱心に俺に聞き込みをしているのだが、もう一人の若者はただ黙って立ったまま無表情に俺を見下ろしていた。…この若者は、俺の情報をどこかに漏らしはしないだろうな?
日々忙しい警察が一人の独身女をいつまでも執拗に追いかけるわけがない。まあすぐに忘れてくれるだろう。警察もそこまで暇じゃないだろう。
「精神科などに通ってはいませんか」
「……あー、はい心療内科に通ってますが」
「どこの病院ですか」
「○○ですが」
「ああ、○○ですか。あそこの○○先生はわたしも知っておりますよ」
「…先生にはこのことは言わないでくださいね」
「はい」
本当に大丈夫なんだろうな?精神科や心療内科と、警察は通通だということですね。
続く…
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