heartbreaking.

中年の末路とその記録

中華料理店の思い出

学生時代は、中華料理店でバイトをしていました。

ある日の出来事です。その店のお得意様である、初老の紳士が店に入ってきました。俺はカウンターから漬物の入った小皿をトレーの上に乗せようとしました。が、うっかり手が滑って漬物の入った小皿を床の上に落としてしまいました。

運悪く、近くに店長が居たので「店長、すみません。漬物を落としました」と謝りました。 すると店長は、床の上に落ちている漬物を素早く指でつまむと、ぱっぱっ!と漬物の表面に付いたホコリを払いのけ、そして小皿の上に… 置きました。

俺が、「あのう、落ちましたけど…」とおずおずと聞くと、「いいから、早くお出しして」と店長は俺の背中を押しました。俺はよろけながらも、床に落ちた漬物の入ったトレーを持って、その初老の紳士のテーブルに向かいました。

「お待たせしました…」 俺は、床に落ちた漬物の入ったメニューを、その紳士のテーブルの上に置きました。「嗚呼、有難う」と、初老の紳士は俺に微笑みながら、とても幸せそうな顔をしていました。俺も笑顔を返しましたが、心の中ではグサッ!ときていました。俺じゃない、俺じゃない、と心の中で繰り返しながら厨房に戻りました。

厨房では、店長と店員仲間が、何の罪悪感もなかったかのように笑顔で他愛もない話で盛り上がっていました。何だ、悩んでいるのは俺だけか… と、俺は何とも言えない複雑な感情をもてあましていました。

心配になったので、物陰からこっそりと、その紳士が食べる姿を見つめていました。その紳士は一人身なのでしょうか。それとも嫁と別れて一人寂しく、この中華料理店に飯を食べに来ているのでしょうか。そんな、ささやかな幸せが… まさかこんな風に踏みにじられているとは気付きもしないで「騙されたまま」でいるなんて。

だんだん忙しくなってきて、その紳士が漬物を食べたのかどうかとうとう確認出来なかったのですが…

その中華料理店の厨房には、木が朽ちて腐っている場所がありました。その隙間を覗き込んでみると、触角が わさわさと動いていたのも覚えています。

とにかくゴキブリが多かったです。夜中、電気を消した後は、真っ暗な闇の中で、その漬物が落ちた床の上をゴキブリ達が徘徊していた違いない… その漬物が落ちた床は、薄汚れたトイレから出てきた靴もたくさん通っているから、それを考えると不衛生で体に悪い事は明らかです。

外食ばかりしている人は気をつけてください。裏では何をされているか解ったのもではありません。これは極端な例かもしれませんが、何処も裏事情は似たり寄ったりじゃないでしょうか。特にアーケード街のように、店が密集している地域ではネズミのフンや、ノミ、ゴキブリのフンなどは当たり前ですから。

お客さんは金を払っているというのに、そこの店員に騙されたまま、哀れみの目で物陰から観察されている場合だってあるのです。

goo blog funamushi2 - 2006-12-07 2006-12-07 16:34:34