heartbreaking.

中年の末路とその記録

時の流れは、血よりも濃いものを作ることがあるね

雨降って地固まる… 夫婦も同じで、出会った最初の頃よりは、いまの二人のほうがきっとイイ。

今日は、B'zの「RUN」という曲の歌詞「時の流れは妙におかしなもので 血よりも濃いものを作ることがあるね」(本当にその通りですね)に影響されつつ、思うまま綴ります。

旦那(以降、「彼」と呼ぶ)との出会いは、なんでもない風で、見た目はまあ「悪くない」と感じた程度だった(一緒にいて嫌悪しない程度の見た目であればいい)。人間付き合い苦手な私にしては、まるで親に話すように自然体でいられる相手だった。出会ったその日の夜、私はどうしても彼を知りたくて抱かれました(抱き合わないと、本当に「合う」か「合わない」かわからないからです)。

彼との付き合いは順調でしたが、私は仕事が定まらず、最後にパチンコ屋の面接を受けたときが最後の妥協点だったのですが、パチンコ屋の裏舞台を一見して恐怖を感じたので、この時点で「自分にはもう仕事はない」と、自分にとどめを刺しました。そしてそのままフラフラと夜の仕事に落ちていきました(彼に黙って決めました)。それを知った彼は私を、なんども引き止めようとしてくれた。「大丈夫、大丈夫」と繰り返す私を、「大丈夫じゃない!」と真剣な表情で引き止めてくれた。

私は大丈夫だと思っていたが、彼は大丈夫だとは思っていなかった。夜の仕事を選べば私は稼げる、だから辞めることは選択肢になかった。私が夜の仕事を続けるかぎり、二人の考え方は食い違うばかりで、だけど金銭感覚の狂った私は、いつしか彼のことを、さらには親のことまで、自分より「効率悪く稼いでいる」と見下すようになっていた。そんな自分を嫌悪することすらなく、「金」に麻痺していた(金に心を奪われ、人の心に鈍感になっていた)。

今思えば、自分はなんと愚かだったのかと、涙が出る思いだ… 私を育てるために身を粉にして泥まみれに働いてくれた父すらも、私はそんなに苦労しなくても毎日お金が稼げる、と哀れんでいたなんて… 哀れむべきは、私のほうです。私は、当時の私の狂った金銭感覚が作りだした、おごりたかぶったものの考え方に、永遠に蓋をして、堅く心を結びました。

大切な人を、見失わないために、もうお金の奴隷にはならない、と。

ある日の出来事。

夜の仕事に疲れ果てて眠る朝、ドアを叩く音がしたが、私は無視して眠り続けていた。気配が去り、その後も私は眠り続けたが、二時間後、ドアを開けると、ドアノブに、コンビニ袋に入ったパンとコーヒーがあった。一時間以上、ドアの前で、私がドアを開けるのを待っていたらしい… 彼は、ドアを開けない私に「ドアにパンとコーヒーかけてるから」とメールを送り、そのまま仕事に行った。

「疲れているから、来なくていいよ」と言っても、彼は会いに来た(雨の日も、風の強い日も)。私が落ちていくのを見過ごすことはできない、という責任のようなものが強く感じられた。「大丈夫」と笑って逃げようとする私の手首を強く強くつかんで、「本気だから…」「嫁にならもらってやる」と、言ってくれた。その時の、つかまれた手首の痛さと、彼の真剣な眼を忘れることができない…(そして、その真剣さは不変で、結婚した今も変わることはなく感じられる)

けして声を荒げることなく、穏やかな彼が、ある朝、狂ったように一声、叫んでいるのを聞いた。後にも先にも、彼が獣のように叫んだのを聞いたのは、これだけだった。それは、彼がいくら「夜の仕事を辞めてくれ」と説得しても、こっそり仕事に戻っていたり、言うことを聞かない私に対するどうしようもない怒りの顕れだった。

女が夜の仕事を選べば、恋愛も、夫婦仲もうまくいかないことを知った。想像では容易にわかるけど、これは実際に経験してみなければわからない。

そんな彼と結婚して、しばらくの間は、結婚前の私の夜の仕事について、ことあるごとに責められた。私には終わったことでも、彼にとっては終わりではなかったらしく、そのことを「本当に反省しているのか」と、確認された。私はその度に、もう終わったことだ、二度としない、と答えた。

酒に泥酔しながら私のふとももに頭をのせた彼の、目じりに薄っすらと浮かんでいたものが涙だったのか、いまだに確認できないまま、ただ、そういう事実が私の過去にあったという記憶は二人の間にこれからも静かに横たわり続ける。だけど、そんな過去を永遠に封じ込めるほど、笑いの絶えない、明るい家族になっていけばいいと思う(二人だけの家族だけど)。

…そして今は私も仕事が「続く」ようになりました。これも結婚して何らかの影響を受けていると思います。自信がついたんでしょうか。自分の劣等感を一つ、消し去ることができて、それが想定外に大きな問題だったのかもしれません…