heartbreaking.

中年の末路とその記録

愛する者が自分の知らない場所で痛めつけられる苦しみ…

愛媛県で「自転車に乗るときもヘルメット」条例施行 (痛いニュース)

愛媛県(私の住むところです)では、全国でいち早く、自転車に乗る人全員にヘルメットが義務付けられました。それは良いんですけど、原付と同じ場所を走るつもりなら、ヘルメット着用とセットで強制的に保険に加入させてください… 自転車にはねられたら、泣き寝入りですから。自転車あなどれないです、人間一人簡単に殺せる殺人マシーンです。

数年前の話ですが、私の母が交通事故に合いまして、家族全員大変な目に合いました。

自転車にはねられたので……

「お母さんが事故にあって大変なことになった」

と父から携帯電話で聞いたとき、意外と冷静だったかもしれない。

家に帰ると母は普通に、生きていたので内心ホッとしたものの、その日から母は体を丸めて「痛い…」と繰り返し、畳の上を這いずるようになり、なにやらヤバげな雰囲気は感じていた。最初に運び込んだ病院では、先生も匙を投げるほど酷い状態だと知らされ、父は絶望していた。後日、紹介状によって運ばれた大病院で大腿骨が破壊されていたことがわかり、急遽手術することになった。

病室のベッドに横たわる母は疲れ果てていた。病室の中で家族はまるで葬式ムードに近かった。母の棒切れのように細くなった足を見て、父が涙ながらに私にこう言った。

「人間なんて、こんなにもろいんだ… 簡単に壊れてしまうんだ」と。

そうだ、人間は簡単に壊れてしまうのだ… とても、あっけなく。

母は、自転車の暴走によってこっぴどく跳ね飛ばされ、地面の上を何メートルも飛ばされ、そしてコンクリートの壁に強く叩きつけられた。

地面の上で這いずる母を、自転車で跳ね飛ばした青年は、見て見ぬふりで、その場を逃げようとしていたらしい。それを母は必死で這いずりながら引き止めたらしい… もし犯人が見つからないままだったとしたら、家族全員どうなっていたかはわからない。

私は、あまり想像したくない。優しい母が、はねられて、空中を舞い、コンクリートに激しく叩きつけられ苦しみもがく姿など… 人間は、自分が感じる痛みよりも、自分が愛する者が誰かに与えられた痛みに苦しむ姿を想像するほうが、苦しいときがある…

…だから、私はなるべく考えないようにしている。考えたくない、母が物のように傷つけられた場面について考えると目の奥が熱くなり、胸が苦しくなることもある。なぜ、何も悪いことをしていない母が、傷つけられなければならないのか。私は、母をはねた青年を、母と同じめにあわせてやりたいと思った… 今でもそう思っている。

私自身が直接与えられた苦しみなら、いつまでも一人で悩みまくっていれば済む話だけど、自分の愛する人が傷つけられた場合はどんなに考えても、この考えが正しいのか間違っているのかすらわからない。今本人がそのことでどのように苦しんでいるのかということも、おそらく正しく理解できていないのだと思う。

…いつか、愛する人が自分の知らない場所で誰かに傷つけられたとしても、傷つけられた本人は、愛する家族が自分のことで胸を痛め自分以上にいつまでもそのことで苦しみ続けることを望んではいないだろう。いや、むしろ、怒り・暴走してしまうかもしれない愛する人たちの未来まで心配して、まだまだ言わないで胸の奥にしまっていることのほうが、はるかに多いのかもしれない。

いくら被害者の家族であっても、怒りに我を忘れ、誰かを傷つけてしまえば刑務所に入れられて、世間からはそういう目でしか見られなくなる。

けれど、自分の愛する家族が、一方的に傷つけられて怒らないことなどありえない。その怒りを抑えるために、そして後遺症も含めた治療のために仕方なく金を請求している。なのに、金額が高いと、金目的かと、なぜか傷つけられた被害者が最初からヤクザのように金目的だったかのように言う人もいる。こればかりは実際自分が誰かに傷つけられて、仕方なく慰謝料を請求する立場にならなければわからないのかもしれない。

やがて時が過ぎ、母も私もお互いに「その事故当時に起きた出来事」については、あまり語らなくなる。それが優しさになっているのかどうかは、直接傷つけられてしまった本人にしかわからない。考えてみれば母の交通事故に限らず、私自身の中にもいくつかの暗い闇の歴史が眠っていて、これは語ってもよい・これは語るべきではない、と勝手に自分で判断して秘密にしたままでいるが、人間というのは、いくつもの暗い闇を心の奥底に隠したままで生きているので、たとえ愛する家族であっても本当のところは本人にしかわからないというのが、とてつもなく怖いなあと思った…

ということは、どんな人間であっても傷つければ、それに対して怒る家族あるいは友人はたまた恋人がいるってことなんですよ… なんでそいつらが反撃してこないかと首をかしげるかもしれませんが、それはただ、その家族なり友人なり恋人がその事実を知らされていないだけで、何年・何十年後であろうともその事実が発覚した時点で、誰かを傷つけてしまった過去のあるあなたは殺される可能性があるってことなんです(現に私も、母を自転車ではねた青年を殺したいといまだに思っていますから)。
人から物を奪ったり・金をとったり・殴ったり・蹴ったりしなさんな、ということなんですよ。。。