heartbreaking.

中年の末路とその記録

離婚した元夫と、いつか、もう一度やり直したい……

バツイチ、バツニ、バツサンでしたなんて、今ではさほど珍しくもなく、「ふうん」と聞き流す程度だが、別れた後でも元夫や元嫁に会い、一緒にメシ食ったり、セックスしている人って結構いるんだろうな……ということに気付くのは、自分もそうなってしまったときである。

時が流れて、わだかまりの解けた頃に、相手の姿を見てしまうと、よっぽど最悪な別れ方をしていない限りは、未練が心のどこかに残っていて、それが、自分が弱くなっているときや、一人の人生に虚しさを感じ始めているときに、この心を掴もうとしてくる。

もし、相手に恋人や家族がいないのならば、簡単なことだ。戻りたいのなら素直に、あの頃へ戻りたいと言えればいいのに、それが言えないのは、結局なにも変わっていない自分を知っているから、同じことを繰り返すだけなのが怖いだけで、相手へ抱く感情はなにも変わっていない。

結局、別れた元夫を超えるほどの、強い愛情を、今後誰かと1から形成してゆくのは到底不可能だとわかっている。手をつなぎ仲良く散歩する老夫婦の姿にあこがれるままに、そうした未来を望むのなら、自分と一番辛い時期を共有し乗り越えてきた人とやり直す選択には大いに価値がある。そうした願望が、絶妙なタイミングで、目に見えないチカラで二人の運命を、急速に引き寄せてしまったのかもしれない。

1年近く音沙汰なかった元夫に、偶然町の中で会い、ほんの少し会話をしただけで、すぐにメールやりとりが初まり、会って楽しく過ごして、抱き合ってしまった。

……ということは、仮にあなたがこれから付き合おうとしている相手が、もし離婚経験のある人だった場合、あなたの知らないところで元夫や元嫁との関係が続いてることまで覚悟しておかないといけないってことなんじゃないか。いくら離れてしまったとはいえ、一度でも本気になれた想いを完全に自分の中から消し去ることなど、到底不可能なのだから。

日曜日の朝、私の体は、元夫の腕の中にあった。動くことも躊躇われるほどの、幸福感に包まれていた。……なにも変わってない、あの頃のまますぎて怖い(お互いに、顔は老けたので、付き合い始めた頃のようなトキメキには乏しいけれど……)。

お気に入りのぬいぐるみを抱くように、だんだん強くしがみついてくる夫の姿に、あらためて、なんで離れてしまったのだろう、二人は離れてはならない一心同体なのかもしれない、と感じた。

ただ一言でいい。もう一度やり直そうと言ってくれたなら、それだけで、今抱え持つ孤独感など簡単に消してしまえるのに、お互いがしがみ付く自由がそうはさせなかった。

こうなったのは、一週間前の日曜日、買い物中に偶然会ったのが、きっかけだった。私の後ろを知らぬ顔で通り過ぎようとする元夫の姿を、私のほうが追いかけていって肩口をポンポンと叩いて「オイ!オーイ!」と声をかけてみたのだった。

向こうは最初、アア、しか言わなくて、オイとアアの会話ってなんなんだと思いつつ。「元気?」と言われたので「元気に働いている」と答えた。なんだか嬉しくて、こちらが笑顔になっていると、相手も笑顔になっていた。

もう少し、話していたい。

だけど、約1年前、離婚しようと先に口に出したのは元夫の側だった。私は別れるつもりなどなかった。そのことが、私にとっては重すぎる事実で、だから、早々に話を切ることにした。

じゃあまた、と言い残し、元夫から離れた。

自分から声をかけておいて、あっという間に離れてゆくのもなんだか不自然かもしれないが、そうするしかなかった。

同じ店の中を、お互いにまわっていたので、時々、少し離れた場所に気配を感じていた。

髪留めを見ている最中に、視界の隅に、気のせいかもしれないけれど、元夫が、じっと、こちらを見ているような気がしていた。

その夜、仕事の休憩時間に、話し相手もなく、一人でスマホを見ていると、元夫からメールが届いていた。
「元気そうだったね。昼間聞いた仕事の話が面白そうなので今度近況聞かせて」という内容だったので、一瞬わが目を疑って、何度もスマホの画面を見直した。

信じられない想いだった。

店の中で感じていた、元夫からの視線は、私の思い違いなんかじゃなかった。

「今度近況聞かせて」のメールの文字を見て、そのあとの仕事も俄然やる気が出た。だけど、浮かれる心に釘を刺してくる自分も確かに存在した。別れたからこそ自分がいま苦労している近況を、わざわざ話してどうなるの?という反発心がなかったわけじゃない。……会うギリギリまで、そうした暗い心が邪魔をしてきたので、約束の時間の30分前までベッドに横たわりながら「やっぱり会うの、やめようかな」と迷い続けていた。

そういうことがあったので、日曜日の朝、一緒に寝ていたし、抱き合っていた。

といっても最初から抱き合っていたわけではない。ずっと触れたくて、でも触れられなくて、ただ他愛もない会話を繰り返しながら夜が明けて、ようやく手を伸ばすことができた。自分が相手に受け入れられようとしているのかどうか……それがわからなくて、最後まで、触れることから逃げようとしていた。

夜の闇が終わってしまえば、このチャンスを永遠に逃してしまうかもしれない。だから背中を向けたままでいると、後ろから腕が伸びてきて、ぎゅっ、と強く抱きしめてきた。想いは同じだったのかもしれない。そのまま、徐々に、強くしがみついてくる元夫の様子に、まだ残る愛情を確信したので、「久々にする?」と、勇気を出して聞いてみた(これを言うのには、かなり勇気がいった)。すると、拒否する様子もなかったので、元夫の下着をずらして、すぐに体の上に跨り、一つになっていた。

そして、また会う約束をした。これを繰り返して、どうなるのかはわからないけれど、何故か、終わりにしてはならないような気がしているし、生きるためには、こういう繋がりが必要なのかもしれないと思った(結局、元夫にいま彼女がいるのかどうかを聞くことはできなかった……)。

とうとう離婚になりました!やったぜバツイチ!(2014-05-15)