heartbreaking.

中年の末路とその記録

スーパーで中年男が私の尻たぶを見ていたらしいことを踏まえて、痴漢擁護した過去を反省した。

夜、人気の少ない店内で、何を飲むか悩んでいた。いつものスーパーとは違うところに来ていた。

静かな時間だったが、あるものが視界に入ってからは、自分が落ち着きのない状態に徐々に陥っていった。

見るとそこには、浅黒い肌をした、中肉中背の中年男がいて、こちらを見ているような気がした。

知らない男だと思うが、近付いたり……離れたり……また近付いたり……を繰り返しているような気がする。やけに存在を主張してくるような気がしたので、気味が悪く、その場を移動したくなった。

ただの偶然だと思おうとしたが、別のコーナーに移動しても、その男は、背後のゴンドラのフロントエンドから現れ、私の姿に引き寄せられるように、徐々にこちらへと近付いてくる。

薄汚れた黒い服、伸び放題の前髪、表情はよく見てとれない。カゴの中には生活感を感じないものが少しだけ入っていた。それだけの買い物をするために、長居する必要があるのだろうか。

気味が悪いので商品を急いで選び、また離れた所に移動し、商品を眺めていると、ここまで買い物の順序が同じことってあるのか!?って驚くほど、また姿を現して、俯き加減にこちらを見ているような気がした。一触即発で、徐々に自分を保つのが、かなり大変な状態になっていた。

何故、私の行く先々に現れるのか、理由を考えるので頭の中が忙しくなってきて、だんだん余裕がなくなってきた。

私のことを、知っているような雰囲気すら漂っている。

私の何を知っている……脅迫のつもりか。知らない人にいきなり問いただすのは、こちらの誤解だった場合に、微妙。早く店を出るしかない。

様々な疑念を取り除こうとしたが、それは、自分の頭の中だけでは無理だった。

部屋に戻り、少し離れた店内にいた彼に「店で行く先々に付いてくる男がいた」と聞いてみた。

「嗚呼、俺も気付いてたけど、あいつお前のケツを後ろから回り込んで必死に見ていた

中年女の尻たぶを見て、己の中で性的欲求を満たす男もいるのか……少なくとも殺意や怨みではなかったのだなと思える要素を見つけて、ひとまず安堵した。ウフフ私もまだまだそんなに魅力的なのね、なんて自信に繋がるとか、そんなどころじゃないです。

気味は悪いが、過去の知り合いではないということのほうが、私にとっては大事だった。

出来れば二度と会いたくない、あの時間、あの店に行くのは避けねばならない。その夜一人になると、その男か、あるいは薄汚い男達に強姦されている自分の想像をしてしまい、自慰をしてしまった。終わった後で、脱力した。そんなこと実際にあったら、立ち直れない。立ち直るどころか、その場で殺されているかもしれない(ただの変質者かもしれないのに、そこまで想像する自分って……orz)。

過去にツイッターやブログで、痴漢被害を受ける女性の心を軽視するような発言をしてきたが、それは間違っていた。

自意識過剰な女は、男達を不安にさせていると思うのだが、実際に女の体に触れるまでの出来事は疑心暗鬼に満ちている。

お互いの心を不安定にさせているだけなのか、それとも明確に意図を持つ殺意か、あるいは過去の復讐か、ただの性的好奇心か。

女の体を性的な意味合いで眺める、触れるだけなら、強姦被害を受けた人間からすれば些細なことなのかもしれないが、そういうことではない。

命の領域に踏み込む危険性がある。不安になると、人は死に少しずつ近付く。それが身に覚えのない不安だとしたら、見つめてくる視線や、触れてくる指先は、鋭利なナイフのように女性の心に内在する不安までを貫き引き裂いて、恐怖を感じる時間中縛り付けられている。

単に、性的な目で見られたくないとか、知らない男に触れられたくない、という驕り高ぶり、我儘ではなく、その日貴方は確かに恐怖に近付いた。

一度目は視線だけかもしれない。胸や尻に触れるだけかもしれない。

だけど二度目は、殺されるかもしれない……その恐怖を避けるために、行動時間を変えなければならないことも、「でも、もしまた同じ時間帯にあの場所に行っていたら……」という未知なる恐怖へ繋がる道を作り始めている。

知らない男に見つめられることで、その疑問から過去にアクセスすると、心当たりの一つや二つはある。そのうちのどれかが、今、復讐に来ているという死の恐怖を感じることもある。

知らない男だとしても、過去に関わってきた誰かの依頼で動いている者かもしれない。

人に見つめられると、様々な恐怖への扉を開いてしまう。

だから、あまり人をジロジロ見るのはよしたほうがいいと思う。

その人を不安や疑心暗鬼の中に陥れたいのなら、効果はあるだろうが、見られた側は、自分を見ていた人の風貌はしっかりと脳裏と心に刻まれている。

自分が誰かにとって、そう思われる不気味な存在とはなりたくないものだ。

異様な気配を持つ者は、スーパーでも、どこでもいる。性的な問題を解消できず闇に閉じ篭ったまま想像だけが心の中で持て余すほどに溢れ出して、爆発寸前を抑えながら、ついには実際の女のすぐ近くまで引き寄せられるように来てしまうのかもしれない。

そうした男を救う道はどこかにあるのだろうか。

風俗以外で性欲を何らかのかたちで満たしたい場合に、恋愛も出来ないとなると、痴漢、盗撮、最後には強姦にまで至るのも、本人の中ではずっと満たされなかった欲求を爆発させたことに過ぎず、本人の中では正当化されて然るべきことなのだろう。

孤独は人をおかしくさせてしまう。

もしそうした人たちが究極の孤独に手の触れるところまで到達していたとしたなら、何故、周囲の人が救ってやれなかったのだろうと問わなければならないことかもしれない。