heartbreaking.

中年の末路とその記録

離れた先輩の後を追いかけるように生きている

仕事が終わって帰宅中に、胸が高鳴る情景が目の前に飛び込んできた。

あの人は……かつて派遣で一緒に働いていた先輩ではないのだろうか……

早朝から柴犬の散歩をしている。犬も飼い主もあまり元気がうかがえない。もうすぐ夜が明けて朝が来るというのに、朝を感じさせず薄闇に溶け込んでいたいかのような姿に声をかけるのを躊躇していた。

あれから何年の月日が流れた……

10年の月日が流れた。似ているようで、当時の犬とは違っているのかもしれない。

先輩が40代前半の頃は散歩の様子も違っていた。元気のありあまる犬がリードを常につっぱらせていて、ポップな格好をしていた。同性であるのに私はその姿、仕草に至るまで色気を感じていた。その人が10年の歳月をおそらく精一杯生きて、今、目の前にいることに、すべての思考が集まってしまったがために理詰めになってしまったのか簡単な行動が出来にくかった。

当時、独身で派遣で働きながら、ベッドメイキングのパートをしていた先輩。仕事が終わった後にいつも1時間以上、仕事の愚痴を聞いてくれた先輩。私が退職する際プライベートで食事を奢ってくれた先輩。お金をかけていないのはわかっていたけど、いつもアイロンのしっかりかかった白いシャツで身なりをきちっとしていた先輩。

その先輩が、別人のようにすっかりおばあさんのような服を身にまとい、たとえるなら少ししおれかけた花のように、犬の散歩をしていた。その様子は悲しく、けれど生きていてくれたことが嬉しく、同じことの繰り返しで止まりかけていたこの心は「そこに」駆け出したかった。

逢いたい、話したかった。気付けばいつの間にか、あの頃の貴方の面影を追いかけるように生きている。

動物園に行きませんか。動物好きですよね。今度の休日どうですか?

それとも、どこかに一緒に行きませんか(どこでもいいです)

貴方の当時の姿を見ていたから、今の私を肯定でき、生きていられる、そんな気がする時が多くなってきた。独りで生きる大変さを身に染みて感じています。当時私は結婚していたので貴方のつらさわかってあげられませんでした。結局私が離婚して、元夫の引き止める手を振りほどいてまで飛び出したかった、あの勇気って、なんだったのかなと思う。貴方の行動、仕草、所持品、いつの間にか私が、当時の貴方のようになっていることに気付く。特に煙草に火を点けるたび、貴方の儚げな横顔を思い出す。実は追い込まれているのに儚く笑うことに意味はない、歳を重ねることの重みを知る。取り返しの付かぬことが人生を誰の手も届かない湖の底へ沈めて二度と光の当たるところに出られないということ。「私が貴方の年齢ならどんなことをしてでもそうしておくよ」という、あの時の貴方の言葉は、貴方自身の叫びだったのだと……

その時、貴方がそうせざるを得なかったこと、そう言わざるを得なかったこと、

逢いたいという想いがあるのに電話番号は失くしてしまっている……今必要なのは、彼女たちに逢うことなのか、それとも、逢わないほうがいいのか。

たった一言「久しぶりです」でそのドアを開けるだけでいいのに、それが、できなかった。

車でそのまま通りすぎてしまった時、二度と逢えなくなるなんて思えなかった。きっと逢える、そう思いながら……

最高の笑顔で貴方を抱きしめられる、そんな日がくるきっと……