タクシーを待ちながら彼とベンチで一服しつつ一休みしていると、目の前を横切る懐かしさに、時が止まった。
別れた夫が買い物袋を下げて通り過ぎて行くのを見て、喉から手が出るほど、声をかけようと思ったが、今、隣にいる彼を不安にさせたくないので、なんでもないふりをして、俯いた。
私の元夫とは気付かず、その服装を軽く揶揄していた彼に対して曖昧に笑うしかできなかった(あの、みずぼらしい姿の男は、私の元夫です……)。
元気で過ごしているんだろうか。まさか毎日弁当で済ませているのではないか。まあ、借金のある私よりかは、金はあるんだろうけど。
嗚呼、早く、服装まで気を配ってくれる女性を娶ればいいのに。どう見たって、一人で過ごしているとしか思えない雰囲気だった。
余計なお世話かもしれないけれど、別に喧嘩別れしたわけではないので、幸せになってほしいと思っている。
目の前の風景すべてが、別れた夫への想いで溢れていた。まだ完全にはふり切れていない。まだ残っている。
二度と戻らぬ笑顔の日々を想い、こみあげてくるものがあったが、何も出来なかった。
別れた人を完全に振り切ることなんてできない。
けれど、別れた人を大切に出来なかったぶん、今、隣にいてくれる人を大事にしなくてはならないとも思い、窓越しに流れてく景色の中に、元夫への想いを溶け込ませていった。