heartbreaking.

中年の末路とその記録

働きたいと思っているのに、働けない

働きたいと思っているのに、働けない、という状況には実際自分がなってみないとわからない。

きっかけを掴む道さえ、本当にあるのかないのかも、だんだんわからないままに、朝が来て、夜が来て、悪戯に日は過ぎて、テレビでは海水浴をしている人達の笑顔が映っている。

季節の移り変わりにさえ付いてゆけてない。いくらニュースを観ても、気になるのは事件が起きて誰かが死んだ、捕まったという内容ばかりで、進化するテクノロジーには目や耳を伏せたくなる。時代に付いてゆける自信がない。これからもっと老いて、自分の努力だけでどうにかなる問題とも思えない。

時間はいくらでも目の前に横たわっているのに、上手く使えない。くつろげる時間を作り出すだけの精神的ゆとりがなくて、いつも何かに焦ってる。人生に焦ってる。部屋にいても、常に背中の後ろから追い立てられてるような気分で、どうも落ち着かない。

ここから先の人生のヒント、何もない。成功の鍵を探すことを焦りながら、上手くいっていた頃の想い出に少し感傷的になり、後悔することも増えてきた。

上手くいっていた頃の自分の周囲には、今では信じられないような、良い人達がいた。何故そうした人に出会えなくなっているのか。歳を重ねるほどに、大きな雑音の中の小さな一粒を見つけるのが困難になっている。

就活はしているが、流石に、この4カ月で6カ所の企業に入ってすぐ辞めたので、反省もしているし、同じ失敗を恐れて、妙に慎重になっている。

自分の名字が少し珍しいものなので、それもあって、あまり人に名前を覚えられたくない。そして後ろめたいことが多いので、なるべく人と顔を合わさずに済む仕事を探している。

掃除の仕事もしたことがあるが、それは精神的な面でラクだった。掃除は、任された部屋に入った後は、ただ黙々とシーツをセットして、洗面台を拭いて、風呂の浴槽内の垢と排水溝のヘドロを取り除くだけでいい。誰でも出来る。

掃除の仕事も一応視野に入れ、最後に行きつくのはそこにして、もう少し頑張ってみようかなと思っている。

履歴書をあちこちにばら撒きすぎたのも気になる。嘘の履歴書だからだ。

履歴書なしで面接に通るコンビニの求人を見かけたことがある。尤もらしい履歴書作ってきても、俺みたいに心が弱くて辞める人間もいるので、堅苦しいことはやめて、ちょっと働いてみたいんですけど、って感じで働ける仕組みを作るほうが、無職が減っていいんじゃないか。わけありの人もいる。俺の彼氏は、元犯罪者で刑務所入っていたから普通の企業では働けない。だから俺は履歴書を見せられるだけ、まだマシなほうだ。

色々悩んでいたら、インターホンが鳴った。女の一人暮らしなので、一応テレビモニターが付いている。

知らない女性二人が立っていたので、居留守使って、後でドアポストを開けてみると、宗教の勧誘のチラシが入っていた。

エホバの証人の大会が近々あるらしく、その招待状だった。

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確かに、人生に迷いはあるし、時間はあるんだが……宗教に傾倒するほど、無駄な時間を使おうとは思っていない。これまでの人生の中で培ってきた、自分独自の考え方に少しでもズレが生じる教えなら、ただ疲れるだけだ。

だけど何故か「あきらめてはいけない!」というこの言葉には、少しばかりの勇気を与えられる。

俺も大分弱っているのかな……でも俺は無宗教だ。霊に取り憑かれたら、寺参りに行くくらいだ。

少しばかり、エホバの証人について、俺の体験を話そう……

高校の頃、友達が、放課後時間ある?って聞いてきたんで、小遣いもあるし、何か美味しいもんでも食べに行くのかと思って、いいよって応えた。

一旦校舎を出て、自転車でぐるぐる周辺を走り回った後、再び教室に戻ると生徒は皆帰っていた。その、誰もいない静けさの中で向かい合い、エホバの証人が定期発行している雑誌を二人で音読する羽目になった。

エホバの証人の雑誌の文章のいたるところに、熱心に蛍光ペンを引いていて、その部分を音読した後で「ここについて、どう思う?」って質問をしてくるので、頭を働かせてもっともらしい感想を述べると、真剣に考えてくれたんだ……と喜んでいた。

信じる者だけが箱舟に乗り、この地球の人類の絶滅から救われるというようなことを、本気で信じているらしい。独特のタッチで、箱舟と、人類と、動物たちとが描かれていた。

……実は、その子のことを、好きだったので……それで付いてっただけ。宗教にはまっている女の子に限って、妙に可愛かったりもする。期待しつつ、勘違いもしていた。俺だけを誘ってくれた。それは彼女も好いてくれているからに違いないと、信じていたくて、宗教なんてどーでも良かった。

それで、俺もエホバの証人について勉強することになり、雑誌も与えられていた。

でも、それについて語る時の彼女の瞳は、俺など見ていなくて、理想郷に完全に魂奪われていた。

とりあえずベーコンエッグとサラダでも作ろうかな。この三日間、食欲がなくてあまり寝ていない。米を食ってなかったので、それで元気なかったのかも……それから、コーヒーでも飲んで気を落ち着かせたら、就活……。嫌だ、本当は働きたくない。なのに本当は働きたいと思っている。矛盾だらけで、誰かに、自分は何度失敗しても懲りないんだ、ハハ……って笑ってみても、働くのは当たり前のことだからねと言い返されて、心が凍り付く。逃げ場があるようで、ないような、中途半端な状態もまた、俺を動けなくさせている。