底辺から抜け出すのは難しいです。俺がやってきたのはずっと底辺の仕事です。
黙っていたけど、実はラブホのフロントだけじゃなく、清掃の仕事もしていました。半年くらい働きました。
清掃の仕事は、一緒に行動する同僚の種類によって、しんどさが変わってくると思います。
せわしなく動き回る同僚と組んだ場合は、諦めて、自分も同じように動くしかないです。一つの部屋が終わったら、次へ行くので、一服する暇さえないです。
要領よく終わらせ、サボる同僚と組んだ場合は、ラクです。
勿論、やる時は精一杯動くし、特に風呂掃除に関しては水滴を残さぬよう徹底的に拭くし、髪の毛一本見逃さぬよう注意していた。
排水溝の汚れはもう面倒なので、直接素手で取り除くんだが、異常に髪の毛の抜けまくってる客がいると相当ウザかったので「抜けすぎやろ、ナメとんのか」と文句言いつつ、シャワーの水圧で何もかも排水管に勢いよく流す。排水溝に人間か動物(ペット連れてきた?)のウンコがあった時もある。
替えのシーツと掃除用具一式を持って、客の出たばかりの部屋に入ると、これ本当に二人が利用したのかと思うほど、大騒ぎをしたかのような、食事の散らかり具合だと、ガックリします。まず食器やお盆を片付けないと、掃除にとりかかれないので。たまに部屋の備品を隠してる客もいるので、探すこともあった。
あと、客が室内に残したメシやドリンクを飲み食いすることが何度かありました。俺は断りたかったのですが、同僚が食べるよう勧めてくるので、あ、はい……って感じで。客が食べ残したおつまみ食ったり……
パンティとか金目の物を盗んだりはしませんでしたけど。そういう掃除の人もいたのかどうかは知りません。
俺は盗んだ意識はないのですが、掃除の時、スキンを補充せねばならないのでいつもズボンのポケットに何個かのスキンを入れて俺の体温であたためていたのですが、それを毎日うっかりポケットに入れたまま帰宅してしまうので、俺の家の中はいつの間にかスキンだらけになっていました。
ナプキンも同様にポケットであたためていたのですが、意外とラブホでナプキンを使う女性が少ないのか(生理中に血だらけでいたしている人もいるようでしたが)、あたためすぎてボロボロになっているのでもう自宅で捨てるしかありませんでした。
だんだん要領よくなってゆきました。まず、部屋に入ると、客の吸い殻の入った灰皿がある場合は、同僚がいなくて一人の時はそこで一服しました。ふいー……で、喉乾いたら、水ゴクゴク飲んで。ちょっと休んでから動き出す。
室内の掃除を終えた後、客が座るソファにゴロンと横になり、テレビで好きなチャンネルを観て過ごすこともありました。AVも観れるのですが、意外と、あまりそういう気分にはなれませんでした。
電マがあるじゃないすか……一人の時、うっかりそれを股間へ……あー早っ、もうイッてしまった。ガクッ。
あと、客の出入りが少ない日は、掃除が終わった後うっかり1時間くらい客室内で寝てしまい、なんか夢まで見ていたのですが、食事を運びましたのチャイム音が聞こえてきて、ハアッ!と目を覚ますと、同僚が起こしに来てくれたらしく、なんとか上司に発見されずに済みました。
洗面所の拭き掃除は超ラクなんですけど、風呂掃除はキツイす。風呂の規模にもよりますけど、慌てて風呂場に入ると客がローション使ってて滑って死ぬかもしれないですからね。
一度、客室のトイレが詰まってた時があるんですよ。使用禁止なのに、俺うっかり自分の用を足すためにそのトイレの便器に座ってしまって、そしたら流れないんですよ。こりゃ困ったなと思って、洗面台にある客用のコップで便器の中の水をすくっては洗面所に捨ててを何十回か繰り返し、そのコップは手洗い洗剤でとりあえず洗って、客用のところに戻しておきました。まさか、歯磨きをするコップが、便器の中の俺の尿をすくいとっていたとは、客も気付かないでしょうね。
用を足す時は、従業員用トイレを使うより、客室の便器に座ったほうが早いので、他のシフトの人が掃除した便器に座り、後は流すだけで特に何もしないので、客は俺の後に利用することになるんですね。
あと、ホットコーヒーを客室へ運ぶ時、カップから零れて困った。偶然近くに雑巾があったので、俺のヤニとニコチンだらけの舌でカップの表面を舐めて、それで拭いといたけど、特に何も言われなかった。
俺は与えられた仕事は真面目にするほうだが、緊急事態には何をするかわからない。
もうラブホの清掃はしないと思うけど、俺でも出来たので、多分誰でも出来る仕事なんだと思うから面接行きたい人は迷わず行ってみるといいだろう。