heartbreaking.

中年の末路とその記録

浮気する兆候

↓ 浮気する前触れ

普段汚部屋だったやつが急に部屋を綺麗にしだした。
部屋のいたるところに放置されていたホコリがすべて取り除かれていた。
見たことない2人分の綺麗なコップが食器棚に配置されていた。
異常に優しい。
妙に機嫌がいい。
なにを言っても笑ってくれる。
逢う時はスマホの電源を切っている。

普段汚部屋なので必死こいて掃除したんだが、、ユニットバスの換気扇のホコリだけは間に合わなかった。掃除機で吸い込むつもりが、気付けばもう逢う約束の時間が近い。

↓ 逢う時間が近くなると、慣れた相手には無造作に放置している自分の体が気になる。

耳垢を綿棒で異常に綺麗に取り除く(耳を舐められるかもしれない)
へそのゴマを取り除く(どういう性癖で、どこを攻撃されるかわからない)
歯ブラシでは取りにくい部分の歯垢を取り除く(口付けに集中したい)
手足の爪を丁寧に切る時、ここで改めてこの後、浮気をするのだと自覚する。普段はちょっと伸びていたぐらいじゃ放置している、そのわずかの爪の伸び具合で、この浮気に至るまでの時間の長さを計り……わくわくしているはずなのに、なにをしているのか、もう若くもない、青春がこれからスタートするわけでもない。

Yes、束の間だとわかっている。

直前に、コンビニかスーパーに寄って口臭対策用のタブレットかガムを買ったところでわりと妄想より現実に近付いてくる。

とにかくこれから浮気するから、どうか気付かないでいてほしい。

1度だけなのか。2度以上なのか。問題は、回数じゃなく、どこかに逃避したいって心があるってことで、結構疲れているのかもしれない。

疲れた心の中で燻っている小さな炎を大きく燃やしてみたい。

ある日、突然の出会いがあり、打たれた瞬間から始まっている好奇心は、どうにも止めることができない。

あの人と見たこともない魅惑の中に身を置いて愛し合いたい。超絶に気持ちよくなりたい。

不安定な日々を乗り切るために、利用しているのかもしれない、この束の間と思える恋を、いまは優先させてしまうのは……

情熱的な想像が頭の中で爆走したり、でも、そんなに「好きなのか?」と疲れる時もある。自分の心が掴めないでいると、誰かに話を聞いてもらいたいと思うようになり異常に口が軽く無理やりテンション上げようとしている部分もあり、そんなことをしているうちに逢う当日になっていた。

会社絡みで知り合った男が部屋に遊びに来た。実際に逢ってしまっているので、逢おうよ?と会社で軽く話していたほどの軽さは消えていて、これからヤるのだというプレッシャーで心が歪んだ状態になっている。

逢って一番に注目するのは私服で、その人の趣味がモロ顕れていて面白い。ここで全然イケてない服を身に付けているなら即、対象外となり、もう触れないでいてほしいと思ってしまうパターンもあったので……合格!もしかして悪いやつなのか?と思わせるくらいがいい。

……どうぞ入ってください。玄関は掃除しているので心置きなく靴を置いてさあ中にずずいとお入りください。あ、どうもお邪魔しますと入ってきて、ここでどうするのか、いきなり服をはぎとり情熱的な口付けをするのか、風俗ではいきなり玄関口で後ろから突っ込んでくる客もいたので、それもよかろうと思っていた。

風俗ではないので普通に部屋に入ってきたが、なんかこの人背が高いな。。頭ひとつ分高くて見上げる格好に。とりあえずソファに並んで座ってテレビを観ながら、チラチラ隣を見ると、ここ最近のヤる想像の中であまりにも美化しすぎていたようで、、会社ではウルトラ格好良く見えていたけど、なんが加工が入っていたのか。。ウルトラではないがこれまでの男に比べると段違いにイけてるんで自分には贅沢だと納得することにした。いいか、ヤるために来たのだし純粋な恋と違う。

ここまできてヤらずに帰るってことはない。引き返せないところに来てる。さあ、いつだ、いまか、まだか、どこだ、ヤるタイミングはどこなのか~、きっかけが掴めなく、会話をしていると1時間過ぎていた。ヤりに来た。ヤられるために呼んだ。テレビなんかどうでもいい。

で、マッサージしてほしいと頼んでくるので(マジでしてほしいのか、それともきっかけを掴むためなのか)ベッドに寝そべっているその肩甲骨あたりを親指で押していても、それでもきっかけが掴めないとは。

マッサージされに来たんではなくて、ヤるために来たならここでズズイッと行くべきだ。拒否られることはないし相手も待ち望んでいると言い切れるこの状況なのに動けない。動けない……!!!

とうとう2時間が過ぎた頃、寝ている彼が両腕をのばしてきた。ちょっと勇気を出して体の上に乗っかると耳元で溜息が聞こえてきた。「……久々の人肌のぬくもりだ」

……人肌のぬくもり。ちょっと忘れかけていたその言葉なのでグラグラした。

自分がそのぬくもりを与えられるなら、ずっとでもいいと思う程度は好きなのに、いつか離れてしまうことにいまから不安になっていては、セフレ関係を求めて逢っている前提が壊れてしまう。

そんなセンチメンタルなことは、今回ばかりは吹き飛ばしてしまおう。付き合っている人がいることは事前に伝えているので付き合うつもりはなく、今回は割り切ってただヤりに来ただけだ多分。

まず、ヤらないことには、帰ることもできない今日は。並んでベッドにいて、いつなんだと思っている気持ちが先に突き抜けてしまったほうが仕掛ける。だけどそれは自分からはどうにも無理だ。ただ手を伸ばすだけなのに、唇を重ねるだけのことがなんて遠いところにあるんだ。気持ちよくさせる自信は実はそれなりにあるのに、ファーストインパクトに対する心構えがまだ不完全でならなかった。

話してる内容とは関係ない、そっちのことばかり考えていると、いつの間にか左腕をのばしてきて腕枕をされていたので、そこで顔をすぐ隣に向けると唇が重なり、長い長いキスを繰り返すうちにその時だけは全部の男を忘れ心を奪われてしまった。ただヤるだけでこんなに舌入れてくるか、本気で好きになりそう、全身がその人の全部を思いきり強く求めていた。長いキスの後は、想像を裏切らない、イイ男だったので長い時間ヤっていて頭の中で思っていたことは、「好きになりそう!!!」

普段とはちょっと違う自分になっていて、そのことが気持ちいいと思っていたし、突き抜けられた。新しい奔流の中でもう一度、自分見つけたい、そして最後は……最高にはじけている。

重なり繋がり合える時間がこのまま永遠に続いて終わらなければ良いのに、終わりはきてしまう。その瞬間、思いきり叫んでいたかもしれない、好きだ!と。好きだ!の代わりの言葉があるならそれは、出して!思いきり、普段の仕事の疲れもなにもかもぶちまけて、私はあなたのはじけた後の情熱を、そっと心の中でかき集め、抱きしめる……

中に発射しない無責任ではないところも後になってじわじわくる。この腹の上に愛の結果が溢れるほどあるのに、終わった後は、さっさと立ち上がりもう腕枕もしてくれない。そういうタイプの人と思うことにした。

あの情熱的なキスをもう一度、終わった後でしてみたいと思っても、そういうタイプではないとしたら不安でならない。男と女では終わった後、違うのか怖くて何もできない。

ヤったことに関しての感想ならお互い素直に、ヤってる最中伝えた。気持ちいい、と何度も伝えた。そしてそれは本当の気持ちだったけれど、心を突き動かすにはもっと強力な言葉が必要だったかもしれないと後悔したがすでに手遅れで。このままでは、遊びだったのかな……で終わってしまう可能性が!待って、遊びじゃない、遊びでこんなセックスはしない、キスだってそうだ、愛していなければできない情熱を注いだ。

テレビなんか、ドラマなんかどうでもいいのに、相手が無口になったので、なんでかと思った。何を考えている?問うこともできなかった。

勘違いと、期待と、不安、渦巻いている。

今後どうするのか(どうしたいのか)、次いつ逢うのか(もう逢わないのか)、答え出さないで別れることになり、暗雲立ち込めてくる。言わなくてもわかっている、なのか、次はないということなのか。別れ間際に、次回逢う可能性を伝えてみた。すると「また」がありそうな言葉が短く返ってきた。

付き合うわけでもないのにいきなりキスをして、そしてヤってしまった相手を今後どうするのかということは。難しく考えすぎると立ち止まる。

立ち止まらずに進むのなら、付いてゆきたいと思えるほどには愛しているのかもしれないが、愛はただ一人だけのためにあるわけじゃないと思えば心は大分軽くなる。

いつか自分が背負うさまざまなものが重荷となり、相手を潰してしまうことを怖れていては、一歩も踏み出せない。

……一人になって、別に反省をしているわけではないが、ただ思った。「嗚呼、ヤってしまった(思いきり)」全然、心が晴れない。2人が以前の2人ではなくなってしまった。

もうここいらで殺してほしいと思う時もある。無邪気に笑うその笑顔、見る度に、自分がものすごく悪いやつみたいで罪悪感半端ない。命懸けで冒険をしているような気もしている。

ありがちだけど、いっそ嫌いになってくれたなら。思いきり冷たくしてくれたなら。他の誰か見つけてそっちに行ってくれたなら、傷付けずに離れられると思っている。だけど心の奥ではそれを望んでいない自分がいて、手放したら自分が不幸になるとも思っているし二度と出逢えないとも……いつも頭の中で言い訳をする時、真っ先に浮かんでくるのは「魍魎戦記MADARA」だ。あなたは失っていた半身なのだ!!!と叫んでもきっと理解はしてくれないだろうけど。

いつも通り、笑顔でじゃあまた、とドアが閉じで出て行ったと同時にスイッチが切り替わる。じゃあまた、が次に逢う時は終わりになり、もう来なくなるかもしれない恐怖としばらく戦うのかもしれない。

単純なことだけで、動かされている自分がとてつもなく、最悪だと思うのに止められない。