heartbreaking.

中年の末路とその記録

お付き合いしている人のために煮込みハンバーグを作ったら、二千円貰いかけた話

今の彼氏とお付き合いして5年が経つが最近は揉めることなく上手くいっている。

結婚はもう懲り懲りなので私は一生独りでいるつもりだが、将来、犬か猫でも飼って「二人で夢を揃えて(二人で)何気なく暮らさないか SAY YES」と思う程度には気に入っている。

いつか一緒に暮らしたいな。そよ風のような優しさと、この世界で一人にしか見せていない特別な笑顔で、幻だと思っていた幸せを二人で真実に変えてゆこう。

大げさなことを言う。君が死のうと言うのなら一緒に死のう。海で溺れているのならばそれがどんなに冷たい海でも命をかけて飛び込もう。その人のために命を賭けれるか。それが愛している以上の答えだと思っている。

いまだにマックを買った時、私のシェイクにストローまで刺してくれる。そんな些細な思い遣りすら失ってはならないような気がして……

毎日電話をしているんだが(毎日電話するというルールは彼が決めた)この間は「メシを作ってくれ」と言うんで煮込みハンバーグをこしらえて待っていたら部屋に入ってくると同時に「ちょっとこっちこい」と言うんでナンデスカと近寄ると財布からビッと二千円出して「これで足りるか?」と二千円くれようとしてるので「いや、そんなにお金かかってないので……」と遠慮しようとすると「俺がエエいうたらエエんや、タダでメシ作らせておくわけにはいかんのや、黙って受け取れ」と二千円出したままその場から動かないんで、千円だけ受け取っておいた。「それでええんか?本当にええんか?」「いや、充分ですお釣がきます」「そうか、わかった」

だいたいいつもこんなで……メシを作ったら千円貰いましたという話です。

ケジメを付けたという感じで納得したようでようやく煙草をふかしはじめてくれたんで、煮込みハンバーグを作ってテーブルに出すと嬉しそうに食べ始めたんで、私も隣に座って一口付けてアレ?って思った。マズイ。つか味がしないよこの煮込みハンバーグ(ハインツのデミグラスソース缶に水を加えて煮込んでみた)。ごめん、マズイねこれ、千円貰うほどでもなかったねと謝ると、「美味いよこれ、デミグラスソースはこういうもんなんや」ほれ、見てみ、全部食ったやろ?と肉の欠片も残さないほど綺麗に食べつくした皿を見せてくれたけど私は納得いかなくて。「あれ?ほんとーに美味いって!」何度もそう言ってくれたけど、でもそれが信じられなくて。

翌日、電話越しにまた「昨日のハンバーグ美味かった(デミグラスソースはああいうもんなんやで)」とフォローしてくれた。「俺はお前があの後悲しそうな顔してるのがずうっと気になってなあ。ほんとーに美味かった」悲しそうな顔?してたかなあ、覚えてない。

ちなみに彼は食ったあと必ず食器を台所まで一緒に運ぼうとするので私は、いいよいいよって言いつつ心の中で、いい人とお付き合いしているなあということを再確認している。

あと、お金にきっちりするというのは、恋愛の中で結構重要です。でも、お金を貰わなくても不満を抱かずメシを作れる程度には彼のことを気に入っている。その人のためにメシ作っている時が、一番愛を自分の中で確認できている。喜ぶ様子を浮かべ料理に専念できるうちは、それが口に出さなくても愛なんだ。愛しているなんてラブソングのように口に出すことなんて到底できないしそれがどういうものかも未だよくわかっていないけれど、抱き合うことよりも大事なことがある。毎回、料理をする度それを確認する。

最初の頃は何かと意見の衝突が多く、普通ではない……と感じることが多かった。

刑務所上がりの彼を「怖がっている」と思われるような発言を迂闊にすると、かなり不機嫌になっていたので、まず「怖がらない」ということを自分の中に刷り込むのに地味に苦労した。
私が子連れの主婦を殺したいと思っていることを告げた時は部屋の中がピーンと張りつめたような戦慄で、心が何度も刺された気がした。私が何故そうなったのかという説明をさせてもらったので、徐々にやむを得ない事情を察してもらえるようになり、様々な配慮をしてくれるようになっている。

たとえばテレビで子連れの主婦が出て何か語っていたり、赤ちゃんが出ていたりすると、彼は私の顔色まで心配してくれていることがわかる。

そんな気遣いしてくれる男などいままでいなかった、一人も……

どの男も子連れの主婦の偉大さを私に向かって話し、憎々しいまでの無邪気な微笑みでこの心をぐぢゃぐぢゃに踏みにじってきた。

だけど彼は違っていた。いつでも私の考えに理解を示そうと努力してくれている。

流石に重い話は一度きりでそれ以降はしていないけど、それ以外の話はよく聞いてくれる。

私はいままで隠れて何度も浮気をした。彼は気付いていたのかもしれない。一度、浮気相手とラブホテルからマンションに帰ったところで、物凄い勢いでレンタカーでぶっ飛ばしてキキーッと目の前で止まると、窓を開けて「おい、行くぞ」と言われた。多分、山奥へ置き去りにするつもりか、海へ沈めるつもりだったのかもしれない。今となっては聞き返すこともできずにいる。

最初の1年は大雨が降ったり晴天になったりで、私は思い通りにならない恋愛にイラついてベランダの仕切り板を割ったり、集合ポストに肘鉄を喰らわせて彼の前でウオーと叫び声を上げたりもしましたが、そんな姿を見ても彼は私の元を離れませんでした(フツー嫌になって離れるだろ……)。

彼は刑務所上がりなので話す内容は刑務所の話が多くて最初の頃はそれが苦痛でしたが、もう慣れました。彼が人生の大事な時期を長く過ごした刑務所時代を共に振り返り、最近では二人で笑いあっている(いや、私は刑務所は入ったことありません)

相手がどんな過去を持っているか理解したので、今はそれを前提に会話の歯車が上手く噛み合っています。

過去も知らないでお付き合いをし続けるってことは、所詮、偽りです。

過去がその人を形成している以上、一切知らぬふりは罪だと思います。

私は誰に何を言われようと、どんなに駄目な自分であっても、君が認めていてくれたならそれでいい。だからこれからも君の刑務所の話を耳にタコが出来ても聞き続ける(もう暗記して君の書籍が出せるほどだよ)。